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IN THE COURT OF THE CRIMOSN KING KING CRIMSON(1969)
このアルバム・ジャケットを初めて見たときはビックリしたなあ。今と違って当時はアナログ・レコードだったから30センチ四方いっぱいのスペースから苦悶する男が飛び出してきそうなものすごいインパクトがありました。中学の頃、学校が終わるといつも駅の近くの小さなレコード店へ通っていました。そこの店長は長髪のロック好きな人で自分の好きなアルバムを一枚一枚店内の壁に掛けていたんですね。アルバムは薄明るいオレンジ色のスポット光が当てられて高価な絵画のように見えました。ある日、その中にこのアルバム「クリムゾン・キングの宮殿」を見つけた私は「うわっ、ごっついなこれ!」と思わず声を出してしまったんです。「音もすごいで」 後ろを振りかえると長髪をかき上げながら店長がニヤニヤしています。レコードの値段はCDに置きかわった現在とあまり変わらず、2500円でしたがこれは当時の私とっては大金。他に必要な出費を頭の中で思い出しながら指折り数えて考えた末、「よっしゃ買おう!」と決心し壁に掛かったアルバムを手に取ると、まるで表彰状の受けとったように両手でうやうやしく持って、すり足気味にカウンターへ向かったのでした。レコードを小脇に挟んで帰宅したわたしは自転車を地面へ叩きつけるようにして飛び降りると、レコード・プレイヤーまでまっしぐらに走りました。はやる気持ちでジャケットからレコード盤を取り出し、静電気防止のスプレーをしゅぱしゅぱと振りかけ(ああ、はがゆい!)ターン・テーブルへ虹色に光る黒い盤面を乗せるとレコード針を下ろしたのでした。何やら霧の立ちこめる向こうから機械の動作音みたいな不安をあおり立てるような音が聞こえてきた後、ビクターの犬状態でスピーカーの前でじっと耳を澄ましていたわたしは、ロバート・フリップの弾く思いきり歪ませたギターが奏でるリフにひっくり返ったのでした。うわっ! そして追い撃ちをかけるようにして、グレッグ・レイクの極端にイコライジングされたヴォーカルが、奈落の底から絶望の叫びをあげる亡者のごとく聞こえてきた時、わたしは首をぶんぶんと振りまわし、「こりゃあかんこりゃあかん」と意味もなく叫んでいたのでした。 ふぅ、こうやって書きながら次第に表現がオーバーになっているハイな自分が怖いですが、まあそれにしても、初めて聴くアルバムでこれほどのショックを受けたこといまだかつてありません。 キング・クリムゾンは1968年末にロンドンで結成されました。フリー・ジャズからの影響も感じ取れるクリムゾンの凄まじい演奏は衝撃波となってすぐに話題を呼び、ステージを観て感動したジミ・ヘンドリックスは演奏終了後、彼らの楽屋を訪れ、ロバート・フリップに向かって「左手で握手をしてくれないか、その方が心臓に近いから」と云って握手を求めたという話も残されています。 1969年に発売された本作「クリムゾン・キングの宮殿」はアンダー・グラウンドから芽を吹き出した新しいスタイルを持つ数多くのバンドの中にあって、まるで突然変異を起こした新種生物のように忽然と巨大な姿を現すと、徐々に変化しつつあった当時のミュージック・シーンを揺さぶり、プログレッシヴ・ロック(ジャズやクラシックなどの要素をふんだんに取り入れ、コンセプト志向の強いアルバムを発表した)というジャンルを一気に花開かせたのでした。 |