THE MICHAEL SCHENKER GROUP (1980)



神(帰ってきたフライング・アロウ)
神様もひっくり返るものすごい邦題だ。わたしはサブタイトルをフライング・アロウではなくフライング野郎だと長らく思いこんでいたものだが、マイケル・シェンカーのこのファースト・ソロ・アルバムは発売当時、”NWOBHM”ブーム(ニュー・ウェイブ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィ・メタル)が吹き荒れる中でかなりのインパクトを持って迎え入れられた。マイケル・シェンカーはヨーロッパの香り高いとても流麗でメロディアスなソロ・ワークが特徴で、フライングVを太股に挟み前屈みの攻撃的な姿勢で正確無比なピッキングによるフレーズは時に感情を爆発させた獣のように泣き叫びながら疾走する。
1956年ハノーバーに生まれたマイケルは、後にドイツを代表するハードロック・バンド、スコーピオンズのリーダーとなる兄のルドルフからギターの影響を受け(兄にギターを教えていたとも云われる)、11歳の時には地元のバンドで演奏していた(最近ファン・サービスとしてこの頃の音源が配布されている)。その後、ドイツ国内で最年少のビート・グループとして話題となったCRYでプロ・デビュー(マイケル13歳)。1971年には兄のスコーピオンズにヴォーカルのクライス・マイネと共に加入する。マイケルはわずか一週間でレコーディングされたというデビュー・アルバム「LONESOME CROW」に参加した後、ドイツ・ツアー中にギタリストが脱退したイギリスのハード・ロック・バンド、UFOに後任ギタリストとして引き抜かれる(スコーピオンズはUFOの前座だった)。10代前半からショー・ビジネス界に身を置いたマイケルは酒と麻薬(マクドナルドのバーガー・セットのようにもちろんセックスも・・マクドはポテトだが)に溺れていき、精神的にも非常に不安定な性格となる。テクニックを見込まれてUFOへ加入したものの、英語の話せないマイケルは他のメンバーと意思の疎通が出来ず孤独に陥りますます神経をすり減らしていった。
UFOの代表曲「ドクター・ドクター」や「ロック・ボトム」などのビッグ・ヒットはマイケルのギター・ワークによる功績が大きい。ギター・ヒーローとして世界的に注目を浴びだした1977年、マイケル・シェンカーはUFOのツアー中に突如として失踪する。バンドはポール・チャップマンをギタリストに迎えツアーを続けるがマイケル不在のUFOに観客は背を向ける。しばらくしてマイケルはUFOに復帰。傑作ライブ・アルバム「UFOライヴ」を発表後、正式にUFOを脱退したのだった。1979年のマイケルは一時的に兄のバンド、スコーピオンズに在籍しステージで強力なソロを見せつけながらも、着々と自分自身のバンドの構想を練っていた。
また、この頃はエアロスミスを脱退したジョー・ペリーの後任ギタリスト候補としてエアロスミスとセッションを行ったり(エアロスミス自伝によれば、全身黒ずくめのマイケルがスタジオに現れると唖然としているメンバーを前にして恐ろしく拙い英語で「このバンドはおれが仕切らぜてもらうぜ。入る前にばっきりざぜどきたいんだ。だっだ今から、このバンドはおれが仕切る。ぼら、おれのジャケットだぞこにがげどきな」と言い放ち、およそブルースとは無関係なクラシカルなソロを弾きまくった後、メンバーの1人と口論となりスタジオを出ていったそうだ)、ポール・マッカートニーとセッションを行ったり(いつものごとく好奇心旺盛なポールがマイケル・シェンカーに興味を持ったらしい)している。このアルバム(CD)のライナーで紹介されているが1990年代に入ってMSG結成直前の音源がブートレッグとして流れたそうだが、ラインナップにビリー・シーンの名前がありとても興味深い。さて、MSG結成直前のこと、マイケルはアルコール依存症のためにハノーバーの病院へ強制的に入院させられる。年が明けて1980年、再び活動を再開させたマイケルだがバンドに残っていたのはヴォーカルのゲイリーだけであった。ドラムに売れっ子セッション・ミュージシャンのサイモン・フィリップス、キーボードにレインボウのドン・エイリー、ベースにモ・フォスターを迎えロジャー・グローバーのプロデュースの元でようやくアルバムのレコーディングは開始され同年この名盤が発売された。
今回、リマスターされたCDを十数年ぶりに聴いて、オープニング・タイトルの「アームド・アンド・レディ」でのマイケルの弾けまくった高速で流れるような美しいソロに圧倒された。収録曲のどれもが優れ聴いていて飽きさせない。2曲目「クライ・フォー・ザ・ネーションズ」での泣き叫ぶようなマイケルのソロはこのアルバムのまさに白眉である。ここまでですでに1700円の元は取れている(あっCDの値段です(^_^;・・)。ソロも素晴らしいが楽曲の根本をなすリフもめっちゃ格好良い!! どの曲も良いがこのアルバムでベストを挙げると6曲目の「イントゥ・ジ・アリーナ」だ。印象的なリフがガツガツと刻まれる中、マイケルのメロディアスでエモーショナルなソロが駆け回る。バッハ的進行のキーボード・ソロの後に引き継がれるマイケルのソロ・フレーズは身震いがするほど感動的。なお、本作CDにはボーナス・トラックとしてドラムにコージー・パウエルが参加したライブがついているが、そこで演奏される「アームド・アンド・レディ」や「イントゥ・ジ・アリーナ」はスタジオ・テイク以上の出来である。さあ、皆さんこのCDを買いましょう!