こわれもの    YES(1971)


    私が一番好きなバンドはザ・ビートルズなのですが、彼らは別格としてあえて、フェバリットに入れませんでした。様々な形で影響を受けたバンド、ザ・ビートルズ…はとてもひとつのページでは語ることができない大きな存在なのです。さて、別格は置いておいて、影響を受けたバンドとして最も大きな存在はこのアルバムを発表したイエスです。1969年にヴォーカルのジョン・アンダーソンとベースのクリス・スクワイアによって結成されたイエス。その大きな特徴のひとつは、ジョン・アンダーソンのとてもクリアでとてもユニークなヴォーカルスタイルにあります。メンバーのひとりは「ジョンのヴォーカルさえあれば、どんな曲でもイエス的になる」と語っているほど、特徴のある声をしています。結成当時はカストラートのように去勢したのではないかとかバカな噂が流れたりもしました。イエスの実質的なリーダーはベースのクリス・スクワイアで彼は結成から30年以上に渡ってバンドを支えてきました。彼のベース・サウンドもとても変わっていて、リッケンバッカーから繰り出されるゴリゴリしたフレーズは楽曲の根幹をなすベースという楽器の基本からはかけ離れたもので、曲間をある時はアグレッシブに駆けめぐり、ある時はもうひとつのメロディラインとして主題と併走しながらも絡み合い、聴いていると曲の中にもう一つの曲があるような錯覚を覚えてしまいます。このふたりをバックアップするメンバーも各々にまず楽器ありきの職人気質なメンツで構成されていて、初代ドラマー(1969〜1972)のビル・ブラッフォードはその最たるもので、世界的にイエスがブレイクした年に「もうイエスではやりつくした」と抜けてしまい、当時イエスの前座レベルのバンドだった、キング・クリムゾンへ加入するという求道的なある意味でとても頑固な人です。彼のドラミングも変わっていて、独特なタイム感にブラッフォード・スネアと呼ばれる極端にハイピッチなスネアドラムの音が特徴で、一度聴いたら朝、目を覚ますために飲むブラックコーヒーのように身体がクセになってしまいます。
    そして、ギタリストのスティーヴ・ハウ。サード・アルバムからイエスに加入したスティーヴは、自分の人生をギターに捧げてしまったような人で、ロックンロール、ジャズ、カントリー、クラシックなどあらゆるジャンルの音楽を吸収し自分のスタイルにしています。その思いきり個性的な(みんな個性が強すぎる〜)サウンドは一聴して彼と分かるもので、ソロ部分ではちょっと引っ掛かったようなピッキングとまわりのメンバーを無視したかのようにマイペースなテンポが(リズム感が悪いとよく云われるが…まわりが見えてないだけと云いたい)特徴です。このアルバム「こわれもの」に収録されたスパニッシュ・ギターでの魅惑的なソロ「ムード・フォー・ア・ディ」はロックの域を完全に超えているし、イエスの組曲では必ず登場するクラシカルな部分ではジョンのヴォーカルと見事にあって、新作が出る度に「また出た、また出た」と思いつつもうっとりしてしまう部分でもありますね。さて、メンバー紹介で終わってしまいそうですが、まだいます。そう、キーボードの魔術師!リック・ウェイクマンです。正式な音楽教育を受けた彼は、60年代中頃から数々のアルバムにセッション・ミュージシャンとして参加していました。彼がイエスに加入したのは、この「こわれもの」からで、技巧的なクラシック・スタイルはイエスの楽曲をより複雑で壮大なものにしました。ステージではキンキラキンのマントを着て登場し、自分のまわりにキーボード類を積み上げ、忙しげに弾きまくるというパフォーマンスが人気を博しました。
    この5人のメンバーによって、1971年に発表されたアルバムが「こわれもの」です。ジャケット・デザインはロジャー・ディーンというSF的な絵を描くデザイナーが担当し、以後イエスのアルバム・ジャケットには欠かせない存在となります。1曲目「ラウンドアバウト」は全米2位を記録したヒット曲でイエスといえばこの曲を頭に思い浮かべる人も多いでしょう。もっとも、彼らには「ロンリー・ハート」という全米1位を記録した大ヒット曲があるのですが…。このアルバムはメンバー各々のソロを収録している点がユニークです。ラストの曲「燃える朝焼け」も彼らの代表的なナンバー。クリス・スクワイアのお気に入りで、やはりベースが素晴らしい。それに加えて、ビル・ブラッフォードのドラムの音!(私はこの曲で彼のファンになりました)。
    イエスの代表作としては、次のアルバム「危機」がありますが、彼らの人気を決定づけ、イエス・サウンドを確立したと云う意味でこのアルバム「こわれもの」を選びました。